
ネコ社会と、ある夫婦の日常を描いたドキュメンタリー映画…と聞くとどんな内容を思い浮かべるだろう?
「かもめ食堂」のような、変わらない静かな日常が淡々と流れる映画なのかな?
そう思って見始めると、冒頭からガツンとやられることになる。
息を殺してたたずむ、飢えた目をした白黒の猫。
家の主人でもある60代であろう男性が、庭に集まった猫たちのために缶詰を差し出すと、隠れていた白黒猫がさっとそれを奪い去る。
「こら!泥棒猫が!」と思わず叫ぶ。
泥棒猫は、最近ふらりと現れては餌をかすめていく、庭猫たちの平和を脅かす存在なのだ。
猫たちの平和は泥棒猫によって破られてしまうのか、それとも…。
一方、主人である男性(柏木氏)と妻の日常にもカメラが向けられる。
決して新品とは言えない軽のワゴン車を走らせて彼が向かう先には
彼との散歩を楽しみにしている知的障害を持った男性
実家への一時帰宅を終えて施設に戻る車椅子の女性
すり減ってしまったので新しい靴を買いに行きたいという足が不自由な男性
そんな人たちが、彼と車の到着を待っていた。
車椅子を押して運動公園を散歩する。途中缶コーヒーを買って差し出す。
売り場で一緒になって底が丈夫な靴を探し、買い物帰りに一緒に回転寿司を楽しむ。
そこには、柏木氏にとっては当たり前の日常があった。
なのになぜだか、その日常を見ているだけで胸がいっぱいになるのだ。
そしてこれはまだ、この映画のほんの冒頭に過ぎない。
そこから続く猫たちと、柏木夫婦を取り巻く日常の物語はとてもドラマチックだ。
監督の想田和弘さんは「観察映画」という手法でドキュメンタリー映画をつくる。
被写体についての下調べをほとんどしない。
音楽は使わない(トレイラーは別)。
主人公を取り巻く日常がリアルに淡々と描き出される。
私が監督を知ったのは「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」という本を手にとってからだ。(余談だがその本を読んだ感動冷めやらぬ中で『ドキュメンタリー1981』をやろうと決めた)
この「Peace」も例に漏れず、音楽は一切ない。
作中で劇的なことが起こるわけではない。ありのままの日常。
なのに何度、溢れる涙をぬぐい、声を出して笑っただろう。
最後、映画の中で重要な役割を果たす男性と、男性の家を訪れた柏木氏の妻との会話はいまもありありと思い出せる。
そして泥棒猫と、庭の先住猫たちの社会にも意外な変化が訪れる。
そのシーンを見て、漫画(映画ではない)「風の谷のナウシカ」の粘菌社会のことを思い出した。
・・・これ以上話すとネタバレになってしまうかもしれない。
その結末は是非、自分の目で見て確かめてほしい。
・Peace(想田和弘 監督作品)
http://peace-movie.com
レンタルにないことも多い作品なのですが、DVDは出ているようです。
※私は先日、慶應義塾大学で開催された日吉映画祭(上映会)で鑑賞しました